『真昼のアイアン・メイデン』《鳥》 CAST:Okita,Ymazaki,Hizikata.













 「近藤さんは?」
「まだ戻りませんよ。夜にならないと無理なんじゃないですか」
答える声に滲んだ、知ってるでしょアンタは・という呆れの色は無視して、更に訊く。
「土方さんは?」
「もう中です」
「…そうかィ」
「入らない方が良いと思いますよ」
「分かってらァ」
それじゃ俺は“邪魔”が入らないように見張りでも・と呟きながら沖田の座る、冷たい床の上。
 彼の背中の後ろは、真っ黒くて酷く分厚い、倉庫の扉。


 「そういや山崎、なんで出てんだ」
「あ、忘れるとこだった!もー隊長、邪魔しないでくださいよ……副長からの言づてで、ちょっと物置に」
「何取ってくんでィ」
すると答えに少し間が空いた。何か含んだように、ちら・と沖田の目を見る。

「五寸釘」

 こちらもまた少し間が空く。

「…あァそう」

そしてすぐに何もかも承知したような顔で、ひらひらと手を振った。どこからかアイマスクまで取り出して、
「じゃ、いってらっしゃい」
「……はいよ」
 この人は本当に見張りをする気があるんだろうか。こっそり心配しながら、一棟向こうの物置まで走っていく。






















 沖田は取調べが嫌いだった。

 嫌いというより苦手と言った方が良いかもしれない。薄暗い密室で、こちらの欲しい情報が吐き出されるまで9割1分はクロのテロリスト相手に延々と聴取。その鬱屈した空気にどうしても馴染めなかった。
 元々自分は向いていないのだ・とも思う。少なくとも見た目は、隊士内で比べればせいぜい山崎くらいにしか勝てなそうな優男だから。最初にナメられると、後が難しい。


 だからお前には任せねェんだよ


 不意に土方の声が蘇って、不快そうに眉根を寄せる。余計なお世話だ・と毒づいた。少しずらしていたアイマスクをしっかり被せる。見ていた空が闇に消えた。
 まだ日も高いのにどこか落ち着いた色の空の下、しんと静まり返った中庭で、かさりと草の擦れる音がする。かさりかさかさ、さらさらさら。さやかな音。もう風の中に秋を感じる。

 その音に混じって、時々人の声が聞こえる。後ろから。部屋の中から。

 ああ今この向こうで、“俺には任せられないこと”をあの人が代わりにやっているのだ。あの人は俺の反対で不思議なくらいに上手いから。

 そう、それだから余計嫌いなのかもしれない。いつもあれだけ扱い易くて面白くて少し可愛く少し憎い、そして馬鹿みたいに優しいあの人が、この時ばかりは俺も近づき難いほど冷たく変わる。それを戻したくて茶化すのに茶化しきれないあの空気が、どうにも苦手でいけないのだ。
 一番大事な柱のために、あえて彼がその役になるのは知っている。だから俺も止めない。もしも彼でなくあの人がそうなったらと思うと、今よりずっとずっと不快な気分になってしまう。



 誰かがやらなくちゃいけない。それを一番理解しているのは多分彼だろう。

 止めちゃ、いけない。




「沖田」
突然がらりと戸が開き、ひょこりと頭だけ出してまるで最初から彼がここにいることを知っていたかのように名前を呼んだ。
 いや、正確には名前ではないか。滅多に無い名字呼び。『総悟』と呼んでくれない。
 全部終わるまでは、多分、呼んでもらえない。
「水、桶一杯持って来い。水道じゃなくて井戸からな」
やっぱり彼の瞳は凍っている。いつも以上に開いた瞳孔、金色にすら見えそうに明るくなった鳶色。心なしかいつもよりも白い頬に、赤黒い血糊がほんの一滴、小さく散っていた。
 今は用件以外のことを口にしても何も返って来ないだろう。冷たい沈黙と、命令の反芻があるだけ。

「承知しやした」

沖田も、笑わない。






 ぴしゃりと戸が閉められる。閉まる瞬間、僅かに中の空気が漏れて、強い煙草の臭いがぷんと鼻を突いてきた。思わず袖口で顔を覆う。
 閉め切った部屋ん中で吸い続けるからだ、この煙草バカ。内心毒づきながら立ち上がった。部屋の中はきっと白く煙っている。靄の向こうで、あの人が無表情のまま詰問し時に拳や足を振るっている。
 はっきり想像できるだけに吐き気がした。





















 一角を取り巻く淀んだ空気とは対照的に、日差しは明るく爽やかだ。
 葉擦れと風の音とに混じって、酷くのどかに時折鳥が鳴く。
















                                 ---------------A Partial End 2.
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


 「鳥」、沖田です。沖田自身の雰囲気というかキャラというか、なんか「鳥」っぽいなあと思って。イヤごめんなさい後付けです。他のキャラが結構漢字でピッタリくるものがあったので付けていったら余ってしまったというのが実情です;; でもやっぱり付けてみるとこれだなって思うんですよね(ぇ

 沖田は結局子ども扱いされるんじゃないかと…土方さんや近藤さんには(笑)  で、実際子供な所があって、それを本人でも解ってて、それが自分でキライなんです。多分(あくまで多分)
 ついでに言うとうちの沖田は一応土方<近藤です。大差で(笑) やっぱり「沖田」というキャラクターは近藤っ子なのが良い……。土方は風光るの土方が一番良い(もう聞き飽きたよお前)